JIKUU RYOKOUSHA : ARCHIVE NO.01

渋谷の四畳半と呼び出しベル

階下からはいつも、タレの焼ける香ばしい匂いが立ち上ってきていた。
焼き鳥屋の横にある急な階段を上がった先の四畳半。それが、当時の彼の居場所だった。
「成り上がる」
ブラウン管の向こうで時代を熱狂させるあの男に憧れ、狭い部屋で己の未来を重ねていた。
窓の外の渋谷はギラギラと変わり続けているのに、自分だけが燻っているような、若さゆえの焦燥感。
酔客の溢れる一階の電話口まで降りていくのは、気恥ずかしさがあった。
それを見かねた店の人間が、2階の部屋まで直接鳴る無骨なベルを引いてくれた。
「 ビーッ! 」
暗い部屋に響くその無機質な音は、彼女がそこにいるという唯一の合図だった。

やがて夢破れ、深く傷ついてこの街を去ることになる彼にとって……
あのベルの音は、冷たい東京に自分を繋ぎ止めてくれる、最後の命綱だったのかもしれない。
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